元ネタは大戦隊ゴーグルファイブ

(最終更新 2014.9.11)

 『大戦隊ゴーグルファイブ』というと、どうもマニア向けではない作品というイメージがある。しかしそれは本当だろうか。
 戦隊物といえば昔からメインターゲットは子供である。しかしそれに飽きたらず、もっと上の年齢層を狙った作品を作りたいという動きが出てきたのが1980年代である。実際、マニアックなマンガ家が自作の中に戦隊ネタを盛り込んだりすることが、1982年頃から急に目立ち始めたという印象がある。つまり子供以外のマニアもまた戦隊を見るという風潮を、『ゴーグルファイブ』が牽引したということは言えても、『ゴーグルファイブ』がマニア向けではないなどとは、とても言えない。
 じゃあなんでそんなイメージが存在しているのか。
 戦隊シリーズのファンといっても二種類ある。一つは、戦隊シリーズそのものに対する世間の認知度が上がることを願う者。もう一つは、自分のお気に入りの作品に対する認知度が上がりさえすれば良いと考える者。後者は、今年の戦隊はそれまでの作品とは一線を画した、大人の鑑賞に堪える作品である、と主張したがる。となると先陣を切った『ゴーグルファイブ』は、そういった主張の被害を最も受けることになる。
 これはまだ仮説の段階である。1981年以前に、そのような戦隊パロディは本当に存在しなかったのだろうかについても、詳しく検証する必要があろう。とりあえず本稿では、『ゴーグルファイブ』をネタにしたマンガや映像作品について紹介することにする。『ゴーグルファイブ』が同時代人にとってどのような受け止められ方をしていたかについて知るための一助となるであろうか。

●ダイコンフィルム『愛國戰隊大日本』

愛國戰隊大日本  1982年8月、日本SF大会で上映された8ミリフィルム作品。19分。1996年にガイナックス『新世紀エヴァンゲリオン』が大ヒット作となって一世を風靡したとき「彼らがアマチュアだった頃に作った作品」という形で知った人も多いであろう。
 内容は戦隊シリーズのよくある一話そのままだが、敵が「アカ」だの「ロスケ」だの蔑称で呼ばれている。これはもちろん、当時のSF大会に集まるようなファンからは、戦隊物なんてまともなSFとは扱われていなかったがゆえに、ギャグとして成立していたのである。もっとも作品のクォリティ自体は、アマチュアが作ったとはとても思えぬ出来ばえで、これが今後戦隊物がマニアの間で市民権を得ていくための大きな第一歩となったと言ってよいのではないか。
 『ゴレンジャー』や『サンバルカン』のネタも見えるが、やはり当時放映中の作品であった『ゴーグルファイブ』の色が濃い。アイ・ゲイシャ(ピンク)の「色町遊び 天国と地獄」、お銚子を手に「おひとついかが」と敵の戦闘員に酒を勧めている構図は、第20話のピンクハート催眠そのままである。  

●吾妻ひでお『おちゃめ神物語コロコロポロン』

コロコロポロン  1977〜1979年に『プリンセスコミック』で連載された『オリンポスのポロン』がタイトルを変更してアニメ化されたのを機会に執筆された続編。掲載誌は『100てんコミック』、1982〜83年。
 ギリシャ神話の世界を舞台に、半人前の女神ポロンが中心となってハチャメチャな珍騒動を繰り広げるというギャグマンガ。「オリンポス大運動会!」では、ポロンが父親の太陽神アポロンに八つ当たりし、困らせようとしてとんでもない発言をする[100てんランドコミックス p.82]。何がとんでもないかというと、『ゴーグルファイブ』は『コロコロポロン』の裏番組だったのである(それぞれテレビ朝日とフジテレビ)。

●桂正和『ウイングマン』

ウイングマン  1983年〜1985年に『週刊少年ジャンプ』で連載された、学園ラブコメ風味のSFヒーローマンガ。ヒーローオタクであった主人公・広野健太がある日ほんとうに変身ヒーローとなり、異次元からの敵と戦うという話。
 会話には特撮ヒーローの固有名詞がドカドカ出てくるし、主人公の部屋にはそれらのポスターや玩具が飾ってある。連載が始まった頃は『ゴーグルファイブ』の終盤ということもあって、主人公のお気に入りもまたそれ。
 学園戦隊セイギマンの新必殺技クラッシュアローはゴーグルゴールデンスピアが元ネタ[ジャンプ・コミックス Vol.5 p.98]。名前はアローなのになぜ槍を投げるのか、置いてきぼりを食った読者も多かったに違いない。

●秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』

こち亀  1976年から『週刊少年ジャンプ』で始まり今なお続く、警察官を主人公にした超長期連載ギャグマンガ。
 『ハイジ』のセル画を買った帰りだというヤクザが、「バトルフィーバー!」だの「ゴーグルファイブ!」だの正義のヒーローの名前を叫びながら、通行人に因縁をつけながら殴ったり蹴ったりしている[ジャンプ・コミックス Vol.33 p.154]。どういうネタなのか、よく分からない。大人になってもアニメだの特撮ヒーロー物だのを見ているのは、頭のおかしい奴に違いないと決め付けるような描き方というのは、確かに当時はよくあった。

●とり・みき『クルクルくりん』

クルクルくりん  1983年〜1984年に『週刊少年チャンピオン』で連載。幼い頃にコンピューターの事故にまきこまれて多重人格を植え付けられた少女・東森くりんと、その秘密を知った松本イオをめぐる中学校を舞台にしたラブコメ。くりんの人格リストに、モモレンジャー・ダイナピンク・ゴーグルピンクの名前が見える[少年チャンピオン・コミックス Vol.1 p.120]。
 載ったのはおそらく1983年の『ダイナマン』が始まってまもなくの頃。桃園ミキの人気は彼女一人のことにとどまらず、戦隊ヒロインそのものの人気を押し上げた、その時代の雰囲気を感じさせるネタ。

●島本和彦『炎の転校生』

炎の転校生  1983〜1985年に『週刊少年サンデー』に連載された、学園ラブコメ風味のアクションギャグマンガ。(しかしこの時期の少年マンガはラブコメ以外ないんかい!?)
 連載第2回「嵐を呼ぶ男!!」において、転校してきたばかりの主人公・滝沢が廊下を歩いている場面で、背景の掲示板に貼ってあるビラに「桃園ミキはじつはゴーグルピンクだったのだ! がんばれゴーグルV!!」の文字がある[少年サンデーコミックス Vol.1 p.28]。よっぽど注意しないと分からないようにネタが紛れ込ませてあるのが特徴であり、『ゴーグルファイブ』ネタは確認できただけで三回あった(残りは「決戦前夜!!」と「伊吹100%!!」)。
 島本和彦氏といえば、『少年サンデー』増刊号のグラビアページで自分の作品のコスプレをして大川めぐみとデートをするという企画をやったこともある。目尻を下げて鼻の下を伸ばしまくった写真はファン必見。

●ゆうきまさみ『究極超人あ〜る』

究極超人あ〜る  1985〜1987年に『週刊少年サンデー』に連載されたギャグマンガ。普通の学園にある日アンドロイドが転校し、巻き起こされる珍騒動。マニアックな小ネタが常時散りばめられている。だが、「「究極の戦士よ永遠に」」で一回まるごと使って戦隊&宇宙刑事のパロディをやったのは、さすがにやりすぎではなかったか。よくも編集者が止めなかったものだと思う。いずれにせよ、この頃になるともはや、高校生が戦隊物を見ることが、それほど奇異なこととは見なされなくなっていた。
 究極戦隊コウガマンが登場したのは、『フラッシュマン』の終盤。1980年代の戦隊から満遍なくネタを取り入れている(変身ポーズ等)。で、オープニングのコウガイエローの元ネタが、ゴーグルピンクと思われる[少年サンデーコミックス Vol.7 p.119]。当時の戦隊ファンにとってそれがインパクトのあるものだったことの証左か。ちなみにコウガイエローは男です。

●東映『非公認戦隊アキバレンジャー』

アキバレンジャー  2012年4〜6月に1期、2013年4〜6月に2期が放映。それぞれ全13話。秋葉原を舞台にした、妄想力を武器に戦う三人のヒーローの物語。東映自身が制作した戦隊のパロディ。深夜枠だから予算は少ない、しかしスタッフは全員公認戦隊の主力級であり、相当力が入っていることが分かる。もはや戦隊シリーズは完全に、大人が見てもおかしくないものになった、その勝利宣言である。
 ただその割には、作中に散りばめられている戦隊ネタが、妙に薄いのは何故なのだろう。1期1話ではさっそく「苗字に色」をおちょくったネタがあるが、なぜそこで『デンジマン』と『ジェットマン』の画像と曲を流すのか。そこは『デンジマン』と『ゴーグルファイブ』のはずだ。2期10話で総統タブーの最期についてベッドで語るツー将軍のセリフ、これ明らかに本編見ずにウィキペディアとかを見て適当に書いたでしょ。